ソムリエのトホホ日記。

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help リーダーに追加 RSS 『こころみ学園 奇蹟のワイン』/川本 敏郎

<<   作成日時 : 2008/07/05 14:19   >>

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 『こころみ学園 奇蹟のワイン』/川本 敏郎(2008年 日本放送出版協会)


 7月7日から始まる「北海道洞爺谷湖サミット」。
 それに先駆けて、京都では6月26日・27日と外相会議が行なわれました。
 日本でのサミットの開催は、2000年の「九州・沖縄サミット」以来になります。


 このような国際的な会議が行なわれる際、必ず「饗宴」が行なわれます。
 「晩餐会」のような盛大なものから、時間がない時は「昼食会」のような略式的なものまで、形は様々なのですが。。。
 このような「饗宴」が首脳同士の仲を親密にし、ひいては両国関係、国際関係を滑らかにする外交の重要な道具立てとなっています。


 20世紀最後のサミットとなった「九州・沖縄サミット」の晩餐会は当時の森首相の主催で沖縄・首里城の北殿で行なわれました。
 その晩餐会の乾杯に使用されたワインが、今回紹介する「ココ・ファーム・ワイナリー」の「1996 NOVO(のぼ)ドゥミ・セック」というスパークリング・ワインでした。
 「ココ・ファーム・ワイナリー」は知的障害者の方の入所更正施設「こころみ学園」が運営するワイナリーです。
 アメリカ人醸造家ブルース・ガットラヴさんの指揮の下、ブドウ栽培、ワイン造りに携わるのは、同学園の園生達。


 この本は、「ココ・ファーム・ワイナリー」の産みの親であり、知的障害者の更正に半生を捧げた川田昇さんの半生を綴ったノンフィクションです。
 職員と園生が共同生活をし、農作業をしながら、自給自足の暮らしの中で起こるドラマ、そしてサミットの晩餐会で供されるワインが如何にして出来上がったのか、活き活きとドラマティックに綴られています。
 簡単に「ココ・ファーム・ワイナリー」のご説明を・・・


 1958年、当時中学の特殊学級の教員だった川田昇さんと特殊学級の生徒さん達が、栃木県足利市の山でブドウ畑の開墾を始めます。
 その10年後、川田さんを中心に手作りでの知的障害者更正施設の建設が始まり、1969年に30名収容の「こころみ学園」が誕生します。
 当時、知的障害者の方の施設は、「保護という名目の隔離」がほとんどでした。
 また、子供用の更正施設はたくさんありましたが、成人更正施設になると、その数は圧倒的に不足していた時代でした。
 川田さん達は、保護するだけでなく、たとえ障害を持った人でも自立して、持てる力を出し切って精一杯生きること、それが自己の尊厳につながり、生きがいに感じられるようにすることが大切だと思い、入園者を15歳以上としました。


 当初は生食用のブドウの栽培と、椎茸の栽培が園生達の仕事で、ワイン造りは行なわれていませんでした。
 しかし、生食用のブドウは市場の価格に影響されやすく、収入が安定しません。
 豊作の年は、一房当たりの単価が下がり、豊作貧乏。
 不作の年は、一房当たりの単価は上がるかもしれませんが、量が収穫できません。
 ワインに加工して出荷した方が収入が安定すると考えた川田さんは、1980年に「ココ・ファーム・ワイナリー」の前身、「樺崎産業」を設立し、果実酒醸造免許を申請します。
 1984年に醸造の認可が下り、ワイン造りを開始、この年に12000本を生産し、完売。
 

 1989年には、世界のワイン学術情報センターとなっているカリフォルニア・デイヴィス校出身のアメリカ人醸造技術者ブルース・ガットラヴさんを招聘し、ワインは更に洗練されたものになります。
 そして1992年にシャンパン方式によるスパークリング・ワイン造りを目指す「ノボ・チーム」が発足します。
 しかし、スパークリング・ワインの醸造は、普通のスティル・ワインの醸造よりも難しく、また時間のかかります。
 まず設備面。
 設備の整った貯蔵庫と工場が必要になります。
 四季を通じて一定の低温度を保つ貯蔵庫を作るために、ワイナリーで削岩機を購入しトンネルを掘る作業が始められます。
 そこに製造に必要な機材・道具が運び込まれました。
 醸造面でも、シャンパン方式独特の醸造過程がたくさん加わります。
 それを園生に教え込み、試行錯誤を繰り返し、1995年にようやく「NOVO」のファースト・ヴィンテージがリリースされました。


 1999年、「ココ・ファーム・ワイナリー」は、一つの大きな出会いを経験します。
 それが雑誌の取材で訪れた世界一のソムリエ・田崎真也さんとの出会いです。
 翌年の沖縄サミットの晩餐会のコーディネートを任されていた田崎さんは、乾杯用のワインは1本250万円もするシャンパンを考えていて、外務省にもOKを貰っていました。
 1本250万円という金額は、ワインの世界においてはびっくりするほど高額というわけではありません。
 それにこの「九州・沖縄サミット」の開催総予算は約830億円。
 首里城に5000万円をかけて調理場を作ったことを考えれば、そんなに高い金額というふうにはならないでしょう。
 しかし、せっかく日本で開催されるのに、フランスのワインでは芸がないと考えるようになりました。
 そこで「ココ・ファーム・ワイナリー」の「NOVO」を思い出します。


 ソムリエという職業は、いつ誰がどのような目的で集まるのかを考えてワインを決めます。
 「21世紀へ向けて未来への調和」というテーマのこのサミットには、「ココ・ファーム・ワイナリー」のワインがぴったりではないかと考え、外務省に推薦します。
 複数のスパークリング・ワインとのブラインドテイスティングにも「NOVO」は通過し、晴れて乾杯用のワインとして決定。
 そして、2000年7月22日、世界の大統領や首相が「NOVO」で乾杯をしました。


 「ココ・ファーム・ワイナリー」のワインは、その物語性だけがよく語られるのですが、何より味わいが素晴らしいことに着目しなければなりません。
 イギリスで発行された「ワインレポート2004」のアジア部門で、「最も早く品質が上がっているワイナリー」のトップ10に「ココ・ファーム・ワイナリー」がランクしています。
 日本のワインを特集した雑誌には、必ず「ココ・ファーム・ワイナリー」のワインが何本かランクインしています。
 この間私が挑戦したコンクールでも、「ココ・ファーム・ワイナリー」に関する問題が出題されていました。
 日本を、いやアジアを代表するワイナリーへと着実に歩みを進めています。

 他にも、心温まるドラマが満載の一冊。
 最後に、印象に残った川田さんの言葉を2つ。
 「仕事というのは、小手先の技術を学ぶことではなく、それを通して生き方を学ぶことだ。自ら懸命になって取り組み、物事をおろそかにしないことを身に付けること。だからこそ、仕事に対して真摯であれ。」

 「1+1が分からなくても、美味しいブドウを作って、いいワインを造れれば、それでいいんだなぁ、人間なんて。」


 今度連休が取れたら、一度訪問してみたいなと思っています。


 ホームページはこちら。
 http://www.cocowine.com/

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